「おばさん」は尊敬できない?

ちょっと前にシナリオの講座を受けていた。そこでは毎週あるテーマで200字詰原稿用紙20枚のシナリオ提出が宿題で出される。ある回の宿題のテーマは「尊敬できるおばさん」だった。ふむ。『逃げ恥』のゆりちゃんみたいな、自立した女性? 主人公を優しく見守るとか? またはキテレツで我が道をゆく女性?と考えていると、ある生徒から質問が出た。

生徒「おばさんって尊敬できる人いますか?」
……沈黙。
講師「いや、おばさんって例えば仕事バリバリやってすごいでもいいし、字がめちゃ綺麗でもいいし。何でもいいのよ」
生徒「はぁ」
講師「てか、それセクハラになるから、今の時代気をつけた方がいいよ」
生徒「……はい」

質問した生徒は、納得していない様子で終わった。(会話はうろおぼえ)

私は、おばさんの第一の意味は中年女性を指す一般的な語だと考えていたので、質問に驚いてしまった。たしかに自虐的・侮蔑的にも使うが、お題で出された「おばさん」は「尊敬できる中年女性」と読み替えるところでは、と思った。

もしくは周りに長所のあるおばさんがゼロとか? でもドラマや映画にはいろんなおばさんが登場する。シナリオ講座に通うなら観ているだろう。
石田ゆり子天海祐希夏木マリ……魅力的な年上の女性がいるじゃないか。と思ったが、そもそも、おばさんの定義が違うのかもしれない。

意味を新明解国語辞典で調べるとこうだった。

おばさん【小母さん】親族関係にない中年(以上)の女性に呼びかける(を指して言う)語。より丁寧な形はおばさま、口頭語形はおばちゃん。
(運用)もう若くはないという、相手に対する皮肉や自嘲を込めて用いることもある。

新明解国語辞典

(運用)にもあるように、見ず知らずの女性におばさんと呼びかけるのは失礼と思われる。とはいえ、「おばさん=尊敬できない」のように、質問者には「おばさん」の負のイメージのみがついていることにびっくりした。

きっと、彼の「おばさん」に石田ゆり子は含まれていないんだろうな。「おばさん」とは、小太りでTシャツで寝そべってお菓子食べてて、ガミガミうるさいみたいな。だったら魅力的な中年女性は何ていうんだろう。美魔女?おばさま?お姉さん?わからん。

そんなことを思い出していたら、8/5の朝日新聞に、おばさんという語について、岡田育さんによる記事があった。同じように「おばさん」が持つ負のイメージについて述べている。

女性は若いから価値がある、という価値観のもと、女性も自虐的に「もうおばさんだから〜」と言ってきた。女性誌でも「おばさんと言われないために」というテーマで記事が書かれた。岡田さんは「おばさん」を使わないのではなく、自然にポジティブに使っていきたいとおっしゃっている。

私が最近読んだ『「普通がいい」という病』(泉谷閑示著)でも、著者いわく言葉は多くの人に使われると「言葉の手垢」がつくと記している。(この本では「普通がいい」「普通が幸せ」とか)
その言葉にまとわりつく価値観をよく見て、正しいかどうか考えることが必要だそうだ。

おばさん、を自虐的に使うと、自分も卑下するし、聞いている人もおばさんに対する負のイメージがつく。年齢を重ねることは別に自虐することではない。そういう風潮が育っていけば、「おばさん」は尊敬できないというイメージもなくなるだろう。
同じ日本人でも、言葉の意味のとらえ方がこんなに違うんだなあ、普段の人とのコミュニケーションでも気をつけようと思った。