『西鶴一代女』/ 転がり続ける女の人生

西鶴一代女』を観ました。田中絹代主演、溝口健二監督で1952年に公開。

初めて溝口作品を鑑賞。いやー凄い映画体験でした。
原作は井原西鶴の「好色一代女」。江戸時代を舞台に悲劇的な人生を送るお春の一生を描きます。ヴェネツィア国際映画祭で国際賞を受賞。溝口監督のワンシーン・ワンカット長回しは海外で高い評価を得ました。

 

あらすじ:
御所に勤めるお春は、公卿の若党の勝之助に宿に連れ込まれたところを役人に見つかり、勝之助は斬首、お春は家族と共に都を追われる。ひっそり暮らしていたが、松平家の側室候補をさがす家中の目に留まり、松平家側室になる。男児を産むが、奥方からの嫉妬で実家に返される。だが父親は、お春の出世を見込み借金をしており、お春は島原に売られ、太夫となるーー

 

あらすじ以降もひたすら転落の人生は続きます。映画の中でお春が幸せだった時間は10分もないかもしれない。
せっかくいい感じの家の女中になっても遊女だったことがバレたり、結婚したばかりで夫が殺されたり、男に襲われそうになって寺を追い出されたり、とにかく不運続き。
倒れたところを夜鷹に救われたお春は、食うためには夜鷹になるしかないと言われ、自身も夜鷹になります……江戸時代は女性が暮らしていくには結婚するか女中か、くらいでしょうか? セーフティネットから漏れた女性たちの悲惨さがわかります。

お春はことあるごとに「売女」と罵られますが、好き好んで遊女になったのではなく、悪運と周りの男性によって堕ちたのに、彼女自身が選んだかのように言われて不憫極まりないです。

お春は悲惨な中でも芯を強く持って正直に生きます。運命に翻弄され受け身の人生に見えますが、「猫で笹屋の奥方に復讐」「松平家で幽閉されそうになったところを逃げ出す」シーンは、彼女のしたたかさと機転を感じます。それにしても、せっかく実の息子が殿になり、ようやく松平家で生母としての地位が用意されるのかと思ったのに、そうハッピーエンドにならないのが現実でしょうか。

 

シナリオは今やったら陳腐になりかねない急転直下続きの展開ですが、俳優さんの演技や江戸時代にしか見えないセット、美しい映像で何だか説得力のある作品になっている。田中絹代さんの凄みと上品な佇まいが素晴らしい。