『ブラッククランズマン』(『BlacKkKlansman』)/恐ろしい人種差別事件を皮肉とユーモアで描く

『ブラッククランズマン』(『BlacKkKlansman』)を観た。
監督・脚本はスパイク・リーアフリカ系アメリカ人への差別や社会問題を扱う作品で知られ、『マルコムX』などの監督で有名。近年は評価が低迷していたが、今作で脚色賞を受賞し、話題をさらった作品。

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あらすじ(ちょっとネタバレあり)

コロラド州コロラド・スプリングス警察署に初の黒人警官として採用されたロン(ジョン・デビッド・ワシントン)。ロンは情報部に配属され、電話で白人至上主義団体KKK接触する。人種差別主義者の白人としてふるまい、気に入られたロンは支部長らメンバーと会うことになる。黒人であるロンの代わりに、同僚の白人フリップ(アダム・ドライバー)がロン役で潜入捜査に。そこである襲撃計画を知る……

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実在する元黒人警官のロン・ストールワース著『ブラック・クランズマン』がベース。映画は、人種差別というシリアスなテーマであるものの、ユーモアと皮肉を交えて描いた素晴らしい娯楽作となっている。

主役を演じたジョン・デビッド・ワシントンはデンゼル・ワシントンの息子!最近だと『TENET』で注目された。

当初ロンは、警察内部でも嫌がらせを受けるが、プライドを持って賢く立ち回る。コミカルな感じでひょうひょうとして好感が持てるキャラクター。白人訛りを使いこなすので、KKKとの電話で「黒人は訛ってるからわかるんだ!」と電話口で言われるけど、自分が黒人だとバレない(笑)

KKKのアホっぷりも今なら笑える。しかし当時は、あまりにもバカバカしい論理がまかり通り、非WASPが酷い差別を受けていたことが事実。いまも日本含め各地で人種差別は残っているが。

KKKへの潜入捜査では、フリップ(アダム・ドライバー)が電話口の「ロン」ではないといつバレるか?ドキドキ。
フリップは危ない役回りでちょっと不憫。過激派のフェリックスには、しつこくユダヤ人じゃないか?と疑われ、嘘発見器にかけられそうになったり。盗聴していたロンのアシストで間一髪救われます。実のところ、フリップはユダヤ人で被差別対象だった。だからこの捜査にも並々でない思いを抱いている。

そして、ロンとフリップ演じる「ロン・ストールワース」は、支部長のウォルターや指導者デビッド・デュークからも信頼を得て、次期支部長に推薦されるまでに……!一方、黒人殺傷計画が裏で進んでいるという情報をキャッチし……


目が離せないハラハラの展開で130分の上映もそんなに長く感じなかった。

アダム・ドライバーいいな〜。去年はアダム・ドライバー出演の映画語ってるの多いと気づきました。職人っぽい雰囲気が好きです。『ハウス・オブ・グッチ』も先日観たけど、カッコよかった。

 

話を戻して、最後のカットでは2017年のバージニア州シャーロッツヴィルの極右集会絡みのテロ、トランプ米前大統領が映し出される。人種差別問題は地続きになっているのだ。

 

ロンと仲良くなった黒人活動家のパトリスとの思想の違いも印象的だった。ロンは自ら警察という白人集団の中に入って内側から意識を変えていこうとする。一方パトリスはなかなか偏見がなくならない世の中に嫌気がさして革命を訴える。どちらも目指している社会は差別偏見のない社会。でも立場によって、個々が取りうる方法は変わって一枚岩にはなれない。

トリビア(Imdbから)

・実は、ロン・ストールワースご本人はKKKとの電話で白人用の声を使わなかったそう。でもバレなかったみたい。(ますますKKK側の思想は当てにならんですね)

・デビッド・デュークを演じたトファー・グレイスサム・ライミ版のスパイダーマン3でヴェノムを演じていた俳優!)は、差別主義者の役作りの影響で、鬱状態になってしまった。グレイス曰く、デュークの自伝なども読んで、想像以上にデュークの人種差別思想が酷いことを知ったが、もっとも恐ろしいのは彼が自分を魅力的に見せていた術を持っていたとのこと。口のうまさやカリスマ性に惑わされずに本質を見ることはいつの時代も大事なのだな。