『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』

ドイツの映画『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』を観た。(ネタバレあり)

あらすじは以下。

ベルリンのペルガモン博物館で、楔形文字の研究に没頭する学者アルマ。研究資金を稼ぐため、とある企業が極秘で行う特別な実験に参加することに。そこに現れたのは紺碧の瞳でアルマを熱く見つめるハンサムなトム。初対面にもかかわらず、積極的に口説いてくる彼は、全ドイツ人女性の恋愛データを学習し、アルマの性格とニーズに完璧に応えられるようプログラムされた高性能AIアンドロイドだったのだ!トムに課されたミッションは、“アルマを幸せにすること” ただひとつ。実験期間は3週間。献身的でロマンチックなトムのアルゴリズムは、過去の傷から恋愛を遠ざけてきたアルマの心を変えることが出来るのか――?
(映画HPより)

 

完璧なAIアンドロイドのトムは、『美女と野獣』『ダウントン・アビー』などで注目されたダン・スティーブンス。彼はドイツ語やフランス語にも堪能だそう。劇中でも指摘されている英国訛りのドイツ語は、セクシーなロボットの設定にもなっている。

主人公のアルマ(マレン・エッゲルト)は、典型的な40代バリキャリ。ベルリンのペルガモン博物館で楔形文字の研究を行う。パートナーとは別れ、元パートナーは再婚。父親は老化が進み、身体的にも精神的にも追い詰められている。アルマ自身も、否が応でも「孤独」の文字が見えてくる。
しかしアルマはAIとの恋愛は最初から乗り気ではない。自分向けに最適化されたアルゴリズムとの恋愛なんて、とトムを相手にしない。
トムはアルマの反応を学習して、調整していく。アルマから手厳しい反応をもらっても全くへこたれないのはロボットだから。

せっかくトムと距離を縮めた日の翌朝のアルマの言葉にはっとさせられる。
「完璧なゆで卵を作ろうとしてる。あなたは固さなんて気にしないのに」
アルマが何をしてあげても、トムに心はない。プログラムだけ。

後半に会った一緒に実験に参加していた男性はアルマの真逆で、美人な女性を連れて「これまで僕は誰にも見向きされなかったから、最高だ」と言う。
アルマは聡明すぎるので、ここまで単細胞になってトムを扱えなかった。女性と男性の違いもありそう。私見だが、女性の方が相手との心の通じ合いを大事にする傾向があるのでは。

朝起きたら完璧な食事が用意されていたり、やさしい言葉で慰めてくれたり。でも、ふとそれでいいのだろうか?と思ってしまう。
自分にとって最高のアンドロイドがいたら甘えてしまうし、生身の人間とのコミュニケーションは面倒くさくなるだろう。単なる都合のいい相手。

でも「都合が良い」相手であるなら、アルマの研究が実はライバルに先越されていた件に対しては、AIはどう反応するだろう。黙っておく? 早めに伝える? CPU部分がすごく稼働しそう。完全に都合いい相手であり続けることは難しい。

人類の永続という観点だと、こんなAIパートナーがいたら人類は滅びるだろう……。わざわざ苦労してパートナーを探したり、傷ついたり、関係を築いたりする必要もない。
まあそれで滅びるなら、人類はそういう運命だったということ。
愛情の対象は何でもありうるんだと思う。昔から何とかフェチとか、二次元キャラ好きの方とかたくさんいるし。そういえば初音ミクと結婚した男性っていらっしゃったっけ。調べたらまだ結婚を続行していてお幸せそうであった。時代を先行しているのかもしれない……。

これからどんどん技術が発展して、人間のようなAIパートナーを得られる日が来るのかもしれない。本当にそれで幸せなのか? リアルの人間同士のコミュニケーションは、どんどん閉ざされ狭くなっていくだろう。人間全体としては、時代とテクノロジーの進化に対応していけばよいのか、考えさせられる映画だった。

 

最後のアルマとトムのシーンは、アルマのアンビバレントな思いが伝わってきて切なかった。アルマはトムに愛情を持っているのだろうと思えたけど、あのレポートもあるので、今後どうなるんだろう。余韻を残す終わり方でした!ドイツの街並みが良かった。ハリウッド的な華やかさはなく、素朴な感じでこれはこれでいいなー。